ニュースを見ていると、タリバン(英語:Taliban)政権という単語をよく聞きますよね。タリバンは学生たちで結成されたので、「学生たち」という意味でもあります。
しかし、アフガニスタンにあるタリバン政権は一体何か説明できる人はすくないのではないでしょうか。日本のニュースでは悪い組織としてくくられています。
そこで今回は、タリバンはどういったものなのか、何をやっている政権なのか、日本との関係などを交えながら簡単にわかりやすく解説します。
タリバンとは?
タリバンとは、イスラム教のスンニ派の組織です。スンニ派とは、いわゆる宗派のことで、イスラム教の約85%を占めます。
最高指導者は、ハイバトゥラ・アクンザダ(Haibatullah Akhundzada)師です。滅多に公に姿を現しませんでしたが、2022年にモスクにて演説を行いました。
タリバンの思想や目的
タリバンの思想はイスラム思想の強いイスラム原理主義であり、目的はアフガニスタンを安定化させて国外勢力の影響を排除することです。
これまでアフガニスタンは、ソ連の侵攻で内戦化した後にアメリカの侵攻を受けました。これをタリバンは外国勢力による支配と考えています。
これを脱却して、タリバンのイスラム思想に基づいて外国勢力の影響を受けないアフガニスタンを作りたいのです。
復権したタリバン政権の現在
タリバン政権は現在も続いています。
タリバンは2021年にアフガニスタンに政権を樹立しましたが、直後は昔のタリバン政権の統治がひどかったことを思い出して飛行機に乗って逃げ出す人々が多かったです。
しかし、現在も女性の人権は弾圧されて、家族以外の男性の前では目だけを出し、顔を覆うことを義務付けるなど国際社会の批判を招いています。
こちらがタリバンの定める女性の服装規定です。
アフガニスタンで昨夏に復権した武装勢力タリバンは7日、女性は顔をベールで覆わなければならないとする新たな服装規定を発表し…
また、市民の暮らしもよくなく、地震災害の影響もあり厳しい状況が続いています。そして、ISと対立して各地で攻撃もあり生活苦から犯罪なども発生しています。
タリバンの簡単な歴史
もともと、イスラム教の神学校「マドラサ」に通う学生たちによって、1994年に結成されました。
その直前に、アフガニスタンに侵攻していたソ連が1989年にイスラム勢力を抑えきれず撤退しました。撤退後は、アフガニスタンは内戦状態になりますが、その中で勢力を伸ばしたのがタリバンでした。
タリバンは、内戦を終わらせて国内を安定化させようとしたため、多くの人が支持して力をつけました。しかし、その後の政治は人権問題に発展して国際社会の理解を得られませんでした。
その後、タリバン政権は、2001年に同時多発テロを起こしたウサマ・ビンラディンをかくまったとして、アメリカ軍の攻撃を受けて崩壊します。その後はケシ栽培などで資金力をつけつつ、2020年にアメリカと和平合意を結びます。
ちなみに、タリバンの主な資金源は以下の通りです。
- ヘロイン
- 大麻の売買
- 資源の略奪
- 身代金
そして、2021年に米軍撤退すると、再びタリバン政権が樹立するのでした。
タリバンは残忍でやばい?
タリバン政権が残忍でやばいと言われている理由は以下の通りです。
- 女性にブルカ矯正着用を命じた
- 女性の教育や就労を禁止した
- 公開処刑の実行
現代社会の常識では、ありえないような弾圧が行われていると国際社会に認識されてしまったのでした。
タリバンが女子の教育を禁じた理由
タリバンが女性の教育を禁じた理由は、「女性は保護しなければならない存在」と認識しているからです。
女性は、守ってあげて大切にすべき存在だと、イスラム教の教えに書かれています。このことをタリバンは女性を教育や就労から切り離すことが、保護につながると考えて女子教育などを禁じたのです。
タリバンは見せしめとしてクレーンを使った
タリバンは2021年に誘拐容疑の犯人を公衆の前でクレーンで吊るしました。生きたまま吊るしたのではなく、銃撃して死亡した後に吊るされました。
この行いに対して人権侵害であるという批判が高まっています。
その時のニュース映像がこちらです。
女性の公開処刑や暴行が問題化
12歳の時にアフガニスタン人のビビ・アイシャ(Bibi Ayesha)さんは、12歳の時にタリバン兵と結婚します。しかし、虐待を受けて逃げ出したところ、夫の兄弟に押さえつけられて鼻と耳を削ぎ落とされました。
また、2012年7月には不倫を疑われて妻がタリバンの夫によって公開処刑されました。
タリバン政権と各国の関係
タリバンと各国政府の関係を解説します。
タリバンと日本の関係
外務省によると、日本はアフガニスタンをテロの温床にしないために、20億以上の支援を行っています。
しかし、タリバン政権が2021年にできて以降は雲行きが怪しくなっています。
タリバン側は日本に対して友好関係の継続を求めています。
一方で、日本側は2021年にアフガニスタンの日本大使館をカタールのドーハに移転しており、必ずしも完全に良好な関係とは言い難いです。ちなみに、日本国民に対しては、アフガニスタンへの渡航を控えるように求めています。
タリバンは日本人を拉致したことがある
タリバンは日本人を2008年に拉致したことがあります。これはアフガニスタン日本人拉致事件と呼ばれています。
人道支援活動を行っていた日本人が、金銭目当てからタリバンによる攻撃を受けて死亡しました。
また、パキスタンやアフガニスタンで医療活動を行っていた日本人の中村医師も2019年にパキスタンの反政府武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の関連グループによって銃撃を受けて死亡しています。
タリバン日本支部のデマ
2021年にタリバン日本支部を名乗る団体が、日本語の求人ページで働き手を探していました。しかし、この投稿はデマであり、求人サイトから削除されることになりました。
タリバンと安倍晋三
2022年に安倍晋三元首相が亡くなりましたが、その際にタリバンは弔意を表明しています。
この際に日本が長い間アフガニスタンを支援してきたことが触れられています。
タリバンとアメリカの関係
タリバンとアメリカの関係は良好とは言えません。
アメリカで同時多発テロを起こしたウサマ・ビンラディンをかくまっていたタリバンをアメリカが攻撃して旧タリバン政権は崩壊しました。
しかし、その後またタリバンは勢力を盛り返して、アフガニスタン国内も不安定な状態になります。アメリカは米軍を駐留し続けますが費用や兵士の命が失われることから手を引くようになります。
そして、2020年にトランプ政権が米軍の撤退で合意し、2021年のバイデン政権下で米軍は撤退します。
こうした背景からタリバン政権もアメリカ寄りのスタンスを取っていません。
タリバンとロシアの関係
タリバンとロシアは関係改善に向けて動いています。
ソ連時代にアフガニスタン侵攻を行って泥沼になって撤退したロシアですが、現在はイスラムの伝統的な価値観を守るという点をロシアの保守的な観点から支持しています。
また、アメリカがいなくなった空白地域で存在感を出したいという思惑もあります。そして、ISによるテロを防止して自国まで飛び火してこないようにしたいとも考えています。
タリバンと中国の関係
タリバンと中国は良好な関係に向けて動き出しています。
タリバンは人権弾圧などの問題で国際社会から冷たい視線を向けられています。しかし、中国は同じように冷ややかな目線を向けることはしていません。
アフガニスタン国内のテロ組織が中国の新疆ウイグル自治区の過激派と結びつき中国が不安定になることを恐れています。だからこそ、タリバンを支援してアフガニスタンを安定させたいのです。
そして、米軍がアフガニスタンから撤退してできた空白を中国の影響下に置きたいとも考えています。
そうすることによって、中国は覇権を取るのに有利になりますし、アフガニスタンを抑えれば一帯一路のインフラを構築でき、アフガニスタンが数多く持つ鉱物資源も手に入れられます。
タリバンとパキスタンの関係
タリバンとパキスタンは、関係が密接です。
もともと、ソ連のアフガニスタン侵攻でアフガニスタンのパシュトゥン人がパキスタンに逃げ出しました。
そして、パシュトゥン人が1994年にタリバンを結成します。パキスタンにはパシュトゥン人が多く住んでいることから支援を受けて拡大してきたという背景があります。
また、パキスタンはインドと対立しているので、他の周辺国であるアフガニスタンと仲良くしていたいという願望があります。
タリバンとISの違い
タリバンとISの違いは以下の通りです。
- タリバン:アフガニスタンの政権運営を行うスラム主義組織
- IS:国家を持たないスラーム過激派組織
タリバンとISは対立しています。また、ISは現在「イスラム国ホラサン州」(ISIS-K)といった支部の方がタリバンとよく対立しています。
タリバンはアメリカと和平交渉を行いましたが、ISはタリバンがジハード(聖戦)を行わなかったと批判しています。つまり、イスラム法に背いていると言っているのです。
一方で、ISはタリバンから戦闘員をリクルートするといった行為も行っているのが特徴です。
タリバンを描いた映画がある
映画『アウトポスト』(2020年)は実際にアフガニスタンでの米軍とタリバンの戦いを描いた映画です。
当時、50名のアメリカ陸軍兵士と300名のタリバンが戦いました。
生々しい人間模様とアクションが見どころの作品です。
まとめ
今回はタリバンについて簡単にわかりやすく解説しました。
タリバンはアフガニスタンを掌握していますが、人権等で問題になっています。
しかし、中露などタリバンに対して影響力を行使して国益につなげようと考えている国もあります。
ぜひ、この記事を参考にしてニュースを読み解きましょう。
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